【傾聴力アップ】話し手に共感的な聴き方を教えてもらう傾聴トレーニングのススメ
こんにちは。どいつよしです。
前回の記事で、「カウンセラー側は間違ってあたり前で、クライエントがそれを訂正できる関係を作ることが望ましい」というユージン・ジェンドリンの言葉を紹介しました。
実は、その関係を聴き方のトレーニング用に体系化したものがあります。
それが、
「話し手に教えてもらう方法 (Speaker as Teacher)」
です。
これは、ジャネット・クラインという人によって定式化された、フォーカシングのリスナートレーニング、
「フォーカサーに教えてもらう方法(Focuser as Teacher)」
をカウンセリングトレーニングに応用したものです。
ちなみに、ジャネット・クラインは、ジェンドリンのフォーカシングの発展形の「インタラクティブ・フォーカシング」を提唱した人でもあります。
話し手に教えてもらう方法ができた背景
クラインがこのトレーニング方法を定式化した背景には、「聴き手に共感的な聴き方を
教えてあげられるのは、話し手しかいない」ということがあります。
産業カウンセラーやキャリアコンサスタントなどの養成講座では、「相手の話を共感的に理解し、その理解を伝え返す応答は効果的である」と学びます。
そして、あたかも話し手であるように話し手の世界を体験して伝え返すようにと教わります。
でも、伝え返し方は「これを言ったら間違いなく共感だ!」というものがありません。
話を丁寧に伝え返すことであったり、
要約して伝え返すことであったり、
発言の裏に隠れた気持ちを明確にすることであったり、
それに加えて、雰囲気や間や口調などのノンバーバルな部分も影響し、
非常に多様です。
だから、どれだけ聴き手が共感的に話を聴いて伝え返そうと努力しても、話し手に「共感してもらえた」と感じてもらえない場合も少なくありません。
聴き手が一生懸命共感的に聴いて伝え返ししているつもりでも、話し手からは「オウム返し」で機械的だと言われることもあります。
話し手が「共感してもらえた」と感じない限り、共感的な聴き方ではないわけです。
共感は昔からの概念で様々な定義がされていますが、「どうやれば」共感的になれるかについての説明は十分になされていないそうです。
だから、共感的な聴き方はムズカシイ。
そこで、「どのような聴き方だと共感してもらえたと感じるのかを一番良く知っている」のは話し手であるので、話し手に教えてもらえばいいのではないか、
そうすれば、聴き手が話し手から「共感してもらえた」と感じるやり方で聴けるようになるのではないか、ということで、トレーニング方法が定式化されたということです。
話し手に教えてもらう方法の手順
このやり方は、話し手の負担が増えるので慣れるまでは難しさを感じるかも知れませんが、手順は簡単です。
1.話し手が話す。
2.聴き手は話し手の言っていることが最初から正確にわからなくていいので、自分なりの理解を伝え返して確認を求める。
3.話し手は伝え返された内容に対して、自分が言いたいことが伝わっているのか丁寧に確認し、違いがある場合は修正する。
4.聴き手は教えてもらって新しい理解を再び伝え返す。
となります。
「話し手に教えてもらう方法」のメリット
「話し手に教えてもらう方法」のメリットについて書きます。
聴き手にとってのメリット
■安心しながら楽に聴き方を学べ、その場で修正できる。
話し手にとってのメリット
■自分でセッションを進めていく主体感覚が持てる。
■自分からのリクエストがかなえられ、その場で修正してもらえるので、内的過程がスムーズに進展し、同時に相手から自分を認められることでエンパワーされる。
双方にとってのメリット
■深まっていく話し手の内的過程に聴き手が寄り添ううちに、2人の間に共感し合う関係が生まれる。
■終わってからの振り返りで相手を批判してしまわずに済む。
「話し手に教えてもらう方法」の注意点
注意点としては、細かくあげると多くなりますが、まず大事なものとしては以下のようになります。
聴き手
■傾聴の基本的な態度で話を聴くのは同じ。
■正しく理解しなくてはいけないとか、全部わからなくてはいけないと考えない。
■話が一区切りするたびに理解を確認する。(わかった範囲で大丈夫)
■修正されても、慌てたりショックで浮足立ったりしない。
■話し手の修正依頼をそのまま取り入れて理解したことを返す。
話し手
■一区切りずつ話して、伝え返しのチャンスを与える。
■どんな理由であれ、自分が聴いてもらえてない、わかってもらえてないという気がしたら、それを相手に伝える。
■聴き手が快く修正する気持ちになれるように優しく丁寧にリクエストする。
■聴き手が具体的にどう修正すればよいかがわかるように「私は〜してほしい」というように伝える。
■修正依頼はするが、決して批判はしない。
■自分がして欲しいことを聴き手に伝えないことは、聴き手が学ぶチャンスを奪うと同時に、自分をないがしろにすることになると知っておく。
双方
■お互いにゆっくり話を進めることが大事。
Example
いつものマンガで説明すると、たとえばこんな感じで行っていきます。僕が講座で教わったものも紹介しますので、先に書いた手順とは少し違うものもありますのであらかじめご了承ください。
実際にやってみると、座り方や目線の合わせ方など、もっと細かいところまでリクエストをお願いすることもあると思います。
感想
このトレーニングを役割を交代したり、相手を変えたりして繰り返していくことで、「共感してもらえた」という聴き方の精度があがることが期待できます。それこそ機械的だと思われてしまう、「オウム返し」一辺倒にならずに済むようになっていくでしょう。
僕もインタラクティブ・フォーカシングの講座で何度か体験しましたが、話し手が「共感してもらえた」という聴き方と、僕が思っている聴き方が違っていることがよくありました。
話し手からその都度修正されたり、リクエストされたりすることは、「間違ってもいいんだ」という安心感を得られるとともに、自分には思いつかなかった聴き方を知ることができ、とても意義のあることでした。
一方で、話し手である時には、自分がほんとうに言いたいこと、わかってもらいたいことを確認しながら、聴き手にリクエストしていくので、エピソードはゆっくり進んでいるのですが、聴き手への信頼感は早い段階で芽生えて、納得しながらカウンセリングプロセスが進んでいる安心感を得ました。
話し手が主体的になっているカウンセリングを実際に体験してみると、自分が聴き手に回った時に、話し手のことを考えた聴き方を意識できやすくなると思いました。
話し手に教えてもらう方法を実際にやってみたいという人は、こちらの書籍の中に詳しく書いてあるので、参考にしていただきながら、ぜひ、仲間同士で傾聴力アップに取り組んでみて頂きたいと思います。
フォーカシングワークブック―楽しく、やさしい、カウンセリングトレーニング
- 作者: 近田輝行,日笠摩子
- 出版社/メーカー: 日本・精神技術研究所
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 単行本
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参考文献
日本・精神技術研究所『フォーカシングワークブック―楽しく、やさしい、カウンセリングトレーニング』
前田満寿美・伊藤三枝子 著 近田輝行 監修 『ハンドブック インタラクティブ・フォーカシング からだに根ざした深いコミュニケーションを学ぶ 〜傾聴・共感・癒やし〜 』